卒論!

こんにちはもちです💘

だいぶ前のことになりますが卒論アンケートに協力していただきありがとうございました(T T) 卒論調査進んでるの?と教授に痺れを切らされ、急遽10日間ほどの期間で行ったアンケートでしたが、260件もの回答をいただき、教授もびっくり!記述式アンケートなのにこんなに熱心に答えてくれるインフォーマントが沢山いるってすごいねえ…と本当に驚いていました、、笑

卒論の完成度には目をつぶっていただきながら【前提】、後半部分の皆様の愛溢れる素敵なアンケート回答を楽しんでいただきたいです🥹❗️

大学に入学した時からずーっと、この一大事務所のファン研究をして卒論を書く!と心に決めて1年生の頃からゼミで活動していたので、この大きな夢を叶えられて本当に嬉しかったー!!!ありがとうございました!(T T)♡

卒論執筆当時と大きく状況が変わってしまったのですが、本文ほぼまるっと持ってきてしまいました()のでセンシティブワード多発かもしれませんがご容赦ください

 

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↑図がアイキャッチ画像になるの嫌で、論文タイトルを画像で失礼します

 

第1章 はじめに

本研究題目の「メジャーデビュー前の男性アイドル」は、旧ジャニーズ事務所で活動していたメジャーデビュー前のタレントたちである「ジャニーズJr.」を指す。ジャニー喜多川氏の性加害問題により、ジャニーズ事務所は会社名および所属グループ名等を変更しているが、旧ジャニーズ事務所タレントのうちメジャーデビュー前のタレントたちが「ジャニーズJr.」という名称で活動していたこと、ファンにもその呼び名の方が馴染みがあることから、本論文では一貫して「ジャニーズ事務所」「ジャニーズタレント」「ジャニーズJr.」等の表記に統一することとする。

 

第1節 目的

本研究の目的は、「ジャニーズJr.」のファンが何に魅力を感じ、どのような行動により自己のファン活動をアイデンティティとして確立しているのかを明らかにすることである。

近年、オーディション番組など成長を見守りながら推しを応援する文化がブームになっている。その中でも本研究では、固定のグループ単位で活動を行いながらメジャーデビュー(一般的にはCDリリース)を目指す「ジャニーズJr.」に焦点を当てる。10代から20代前後の比較的若年女性であるファンたちは、彼女たちと同世代あるいは年下のジャニーズJr.を応援する際にどのような活動および消費活動を行うのか、またその活動の原動力となる気持ちには何があるのかを調査および分析する。

本研究では、「好き」「推したい」などの自己完結的感情を抱くことに加え、SNSやブログなどを用いた発信活動(記録目的の自己満足の投稿も含む)および消費活動を行っていることを「応援」と定義し、調査及び分析を行う。完成された対象を「推す」のではなく、未完成な対象の「成長を応援する」という形の文化だからこそ存在する「もっと活躍してほしいから応援する」「○○(消費活動や拡散活動)しなきゃ」という一種の使命感のような感情に着目し、それが実際にどのようなファンの行動および価値観と繋がっているのかを分析することを目的とする。

 

第2節 研究背景

先述したように、近年、オーディション番組をきっかけとした新ユニットの結成などファンが特定の人物(多くはモデルや俳優、アイドルの卵)の成長を見守り、応援活動をするような推し文化が流行っている。しかしこれはここ数年で芽生えた新しい文化ではない。若手俳優が出演する公演を鑑賞し、才能のある新人を見抜き、立派な達人になるまで応援するというような、「未熟さ」を愛でながら完成度の高いプロフェッショナルに成長していく過程そのものを楽しむ文化は、伝統芸能の歴史においても存在している(Kakin 2018)。また、宝塚やアマチュアスポーツにおいても同様の構図を観察することができると言えるだろう。未完成な対象の成長を応援する文化の中でも、本論文ではジャニーズJr.を分析対象とする。

長年にわたり日本の男性アイドル文化の代表的存在として不動の地位を守ってきたジャニーズ事務所に所属する、いわばアイドルの卵であるタレントたちの総称であるジャニーズJr.は1980年代から存在している。日々のレッスンに加え、先輩タレントたちのバックダンサーとしてステージに立ち、実践経験を積み、テレビ、ラジオや雑誌等のメディア出演で知名度の拡大も行いながら、CDデビューを目指していくというシステムが取られている。インターネットやSNS文化の普及により、近年では、ジャニーズJr.をメインキャストとした番組(『ザ少年倶楽部』、『まいど!ジャーニィ』、『ジュニランNEO』)の放送や、テレビ、ラジオにおけるグループ単位での冠番組の放送、ジャニーズJr.専用の公式動画配信サイト「ISLAND TV」の設立、ジャニーズJr.専用YouTubeチャンネルの開設など、活躍の場をさらに広げている。コンサートや舞台などの公演会場では、タレントと同世代の若い女性ファンが圧倒的に多く、コンサート、舞台等に足を運ぶほどに熱量をもって応援をしているファン層として若い女性たちが大きなボリュームを占めていると言える。多くの時間とお金をかけて応援をするその姿は単なる「娯楽」ともまた違った特徴がある。

ジャニーズJr.ファンの実際の言葉を引用しつつ分析を行うことで、「推し文化」が流行する現在において、ジャニーズJr.とそのファンの関係性がどのような特徴を持つのか、また実際にジャニーズJr.を応援するファンは、どのような価値観をもとにどのような行動をとっているのかを探ることができる。

 

第3節 研究対象と研究方法

本研究では、文献調査とアンケート調査による分析の2つの手法を用いる。

文献調査では、主に他の応援文化との比較を行う。未熟な存在を応援する文化が他にも存在する中で、男性アイドルを応援するということの特異性およびジャニーズJr.を応援する若年層の女性たちに見られる特徴的な部分を明らかにしていく。

アンケート調査では、ジャニーズJr.を応援している人を対象にした記述式のアンケートを行った。実際に現在ジャニーズJr.を応援しているファンの言葉を引用しながら分析を行う。完成された対象を「推す」のではなく、未完成な対象の「成長を応援する」という形の文化にこそ存在する「もっと活躍してほしいから応援する」「○○(消費活動や拡散活動)しなきゃ」という使命感的な感情に着目し、それがどのようなファンの行動および価値観に繋がっているのかを分析する。

 

 

第2章 先行研究と社会的背景

 

第1節 ジャニーズJr.の歴史

本節では、ジャニーズJr.という存在と、彼らがどのような活動を行ってきたのかを時系列でまとめていく。なお、ジャニー喜多川氏の性加害問題により、2023年10月17日より「ジャニーズJr.」という名前は廃止されたうえで活動が続けられているが、調査を行った時点での活動名称が「ジャニーズJr.」であり、インフォーマントの多くが長年のジャニーズファンであったこと、ファンの間でも長い間その名称で親しまれていたという点も含め、「ジャニーズJr.」の名称を用いることとする。

 

1-1 ジャニーズJr.の誕生

「ジャニーズJr.」という存在はいつ誕生したのだろうか。時代によってジャニーズJr.としての活動領域に変化はみられるものの、その原型であるバックダンサーとしてのジャニーズJr.は1970年代から存在する。1973年、郷ひろみのバックダンサーとして9人の「ジャニーズ・ジュニア」がお披露目される(矢吹 1996)。その後選抜された3人のメンバーにより「JOHNNNY’S ジュニア・スペシャル」を結成し1995年にレコードデビューを果たす(太田 2018)。これがジャニーズJr.誕生の第一歩であると考えることができるが、レコードデビュー後のユニット名に「ジャニーズ ジュニア」が含まれることも加味すると、デビューする前のジャニーズタレントをジャニーズJr.として呼ぶ現在の文化とは少し違った面があるともいえるだろう。

1980年代に活躍した光GENIJIのバックダンサーにはジャニーズJr.から結成された「平家派」というユニットがついており、平家派メンバーの中には後のTOKIOやV6のメンバーも存在する。この時期が、ジャニーズJr.のシステムが本格的に確立され、彼らの存在およびそのファンの活動がより活発化したタイミングであると考えることができる(大谷・速水・矢野 2012)。

 

1-2 「ジャニーズJr.黄金期」の到来

1990年~2000年初頭にかけて、ジャニーズファンが「ジャニーズJr.黄金期」と呼ぶ、ジャニーズJr.の一大ムーブメントが起こる時代が到来する(太田 2020)。ドラマ、映画、舞台出演の他、音楽番組やバラエティ番組にも出演し、社会現象を巻き起こすほどであった。タッキー&翼のメンバーとなる滝沢秀明を中心とし、今井翼、嵐や関ジャニ∞のメンバー、生田斗真風間俊介山下智久など多くのジャニーズタレントが、デビュー前のジャニーズJr.でありながらも爆発的な人気を持っていた。テレビ朝日系『ミュージックステーション』への出演以外にも、1996年放送開始 テレビ東京系『愛LOVEジュニア』、1998年放送開始 テレビ朝日系『8時だJ』といった、ジャニーズJr.がメインの冠バラエティ番組が始まった(太田省一 2020)。『8時だJ』は、全国放送かつゴールデン帯の放送であったことからも、当時のジャニーズJr.の人気ぶりを垣間見ることができるだろう。アイドルとして生きるジャニーズのメインステージであるコンサートにおいても、”アーティスト初”を達成するという大きな結果を残している。1999年には『特急・投球コンサート 10月9日東京ドームに大集合!!』というコンサートを東京ドームで開催したことで、CDデビュー前に東京ドームでコンサートを開催した初のアーティストとなった。また、2000年には大阪ドームナゴヤドーム、東京ドームの3会場にて『ジャニーズJr. <東・阪・名> 3大ドームコンサート』を開催した。ここが1つの転換期となり、現在のジャニーズJr.の活動に大きな影響をもたらしている。

 

1-3 インターネットの発達とジャニーズJr.の活動

ジャニーズJr.黄金期をきっかけにジャニーズJr.の活動は活発化していく。インターネット上でジャニーズタレントの写真や映像が出回ることは極めて少なかった。違法コピーによって望ましくない形で拡散されることでタレントが持つ経済的価値が損なわれる恐れ、すなわち肖像権(パブリシティー権)侵害のリスクがあるという考え方が根本にあったため、新聞社は紙面の写真をネットへ転載することができない状況が基本であり、テレビ局は番組をネット配信しようにも許諾が下りなかったなどのケースが発生していたからである(黛 2018)。一方で、ここ数年のめざましいインターネット文化の発達に合わせてジャニーズ事務所のインターネットとの向き合い方も軟化しており、ジャニーズJr.の活動幅にも大きな変化が生まれている。

2018年3月21日 『ジャニーズJr.チャンネル』(2023年10月16日より『ジュニアチャンネル』)としてYouTubeに新チャンネルを開設し、日替わりで各曜日担当ごとに動画配信が行われている(スポーツ報知 2018)。また、2019年3月1日にはジャニーズJr.公式エンタメサイト『ISLAND TV』が開設され、コンサート前やレッスンの合間等にジャニーズJr.自身が撮影した動画の配信、コンサート内容の一部生中継が行われる動画配信プラットフォームとして活用されている。2023年5月28日に公式Twitterアカウント開設、2023年6月29日に公式TikTokアカウント開設、2023年8月19日に公式Instagramアカウント開設が行われており、各SNSでの活発な活動が行われている(いずれもタレントごと、グループごとの個人アカウントという形ではなく、「ジャニーズJr.」一括でのアカウントとなっている)。

指定のハッシュタグで質問募集を行い、ファンがハッシュタグを使用して投稿(主にTwitter)、それに対してブログや動画で質問回答の企画を行うなど、うまくSNSを利用しているタレントも存在する。ただ、投稿に対するコメントでの返信、ダイレクトメッセージなどでの個人のやりとりが行われることはなく、タレント側からの一方的な発信および、返答するとしても対個人ではなくファン全体向けの発信となっているところが特徴的な点であると言えるだろう(ハッシュタグで募集した質問をピックアップしてブログで回答するなどの形)。

筆者が2021年に行ったジャニーズJr.ファンへのインタビューでは、ジャニーズJr.のインターネットコンテンツ進出について以下のような発言が見られた。

 

Aさん(20代女性)「あとは、配信ライブとかがあるから、家で応援できる。」

筆者「そうだね、マジでコロナ禍だよねそれはね。」

Aさん「ね。でも便利だよね、なんも準備しなくても見れるから。」

筆者「まぁね、パジャマでも見れるしね」

Aさん「そうね、そこはあるかも。なんかジャニーズって会わないとさ、今まで、テレビでしかみれない、みたいなとこだったから」

筆者「そうだね、それは本当に。」

Aさん「うん、それに比べたら。応援しやすくなった、気はする。」

 

YouTubeチャンネルやエンタメサイトの開設後、新型コロナウイルスの感染拡大があったことからインターネットでの無観客ライブ配信が数多く行われた。実際に「会う」ことができるコンサートや舞台などに足を運ぶことなく、タレントの活動を見守り、応援することができる環境が整ったというのは、ファンにとってとても大きな機会であったと考えることができる。

 

Bさん(20代 女性)「ISLAND TVとかさっきの話じゃんもう、昼公演と夜公演の合間に撮りました!みたいなやつとかがすぐ上がって、だって髪色変わってるかなんてさ今までは月一の雑誌とかでしかわかんなかったのにさ、染めました~いぇい~!みたいのがほぼリアルタイムみたいなレベルで知れるわけじゃん、(中略) 完全にリアルタイムではないけど、できるだけリアルタイムに近い、つまり身近に感じやすい、なんかおんなじ時代を生きてる!みたいなそういうのが増えた」

 

またBさんは、ISLAND TVの開設によって、より「リアルタイムに近い」形で情報を知ることができる点に大きな魅力を感じていることが分かる。各個人がSNSアカウントを保有し、プライベートなシーンを垣間見るというような形態ではないものの、インターネット社会との遮断を行ってきたジャニーズ事務所およびタレントが、インターネットを介してファンに発信を行うことができる環境が整ったことはファンにとっても衝撃的であった。

 

第2節 成長を見守る応援文化

本節では、ジャニーズJr.と同じように、対象の成長を見守りながらそれを娯楽の1つとして楽しむような応援文化を取り上げ、分野別に分析を行う。

 

2-1 宝塚

成長を見守る応援文化を語るうえで欠かせないのが「宝塚歌劇団」の存在である。宝塚音楽学校に2年間通い、卒業をした生徒[筆者注: 宝塚では、音楽学校入学から入団後まで「生徒」という考え方がされる。宝塚音楽学校卒業後、宝塚歌劇団に入団した年が研究科1年となる]が1番最初に立つ舞台は4月の宝塚大劇場公演であり、「初舞台公演」と呼ばれる。初舞台公演本編に、入団1年目の初舞台生が出演することはほとんどなく、開演前に日替わり数名にて行われる「舞台口上」、ショーの一場面として披露されるラインダンスの披露のみとなる。その後、それぞれの組に配属され、新人[筆者注: 宝塚では研究生1年~研究生6年を新人と指す]のみで本公演と同じ演目を上演する「新人公演」が行われる。この新人公演は、ファンにとっても将来有望なスター候補を見つける大きな機会となり、主演を務める生徒は未来のトップ候補の1人とされることになる(はじめましての宝塚 2023)。

疑似恋愛的感情で男役のタカラジェンヌをみているファンもいれば、宝塚歌劇団のステージ自体が好きで舞台に足を運ぶファンもいる。一方で、宝塚という文化の大きな特徴として、トップスターに上り詰めていく過程を楽しむという側面も存在する。

 

お客さんは宝塚の男役として、未完成、それをファンの人たちが一緒に伴走、走るわけです。時に共感しながら、勉強しながら、落ち込みながら、だんだん男役としてかっこよくなるっていう姿を一緒に追いかけていくプロセス、これにお金を払っていく、関与していく、これが宝塚のビジネスです。(中略) 。ファンの人たちは共感しながら、伴走して、つまり自己関与性です。伴走しながら、我が子のように感情移入するんです、いかに自己関与させるかです。(森下 2021:56-57)

 

各組の男役および娘役の主役である「トップスター」を目指していくタカラジェンヌを応援しているファンは、タカラジェンヌとともに走り、我が子のような目で成長を見守ることで、トップに上り詰めていく過程に自己関与性的な喜びを重ね合わせてさらなる喜びを得ている。

 

気になって仕方がありません。「今、何をしているんだろう」とか「役づくりで困っているのでは?」など、どこまでも深く理解したい思いが募ります。ご贔屓を成長させたい「育てモード」とでも言うのでしょうか……(AERAdot 2019)

 

上の発言はAERAdotの記事内でタカラジェンヌに行われたインタビューの引用である。ファン自身が「育てモード」であることを自覚し、応援を行っている点も興味深い点である。

 

2-2 アマチュアスポーツ

夏の風物詩とされる甲子園野球をはじめとするアマチュアスポーツも、成長を応援する文化の1つである。甲子園野球のシーズンになると、出場選手の生い立ちやバックボーン、出場校の歴史に迫るドキュメンタリー番組などが組まれ、本編である試合をより楽しむための一種のコンテンツとして提供される。また、著しい活躍を見せた選手はその後のドラフト会議などでも注目され、メディアからはもちろん社会的に注目を集めることとなる。甲子園野球は、ただ成長を見守り応援をするというだけでなく、選手の人生に共感し、ときに自分のかなえられなかった夢や青春を重ね合わせることで「憧れの青春」を体現するヒーロー的存在として視聴者、観戦者の心に存在し続けている。

 

「理想化された他者」という枠組みが多かれ少なかれ維持され続けているのではないかという視点が、甲子園野球というイベントの独自性を解明するうえで必要となるだろう。(西原 2013)

 

チームのメンバーと協力し、家族や監督など様々な人の思いを背負い、血の滲むような努力を重ね、高校時代のすべてををかけて夢に挑む姿。勝ち上がっていったものしか掴むことのできない栄光を、応援する視聴者の1人として体験したいという気持ちも含めて応援している層も多いと考えられる。

 

2-3 選抜アイドル

48グループや坂道グループなど、シングルの度に参加メンバーが選抜されるアイドルグループも存在する。センターはもちろん、テレビパフォーマンスの際に多く映ることができたり、歌唱パート割が多くなるフロントと呼ばれるポジションも大事になる。購入したCDに投票権がついており、ファンの投票結果によって選抜メンバーが決定するAKB48選抜総選挙は、ファンが「推しメン」[筆者注: ファンが応援しているメンバーのことを指す語のこと]への愛を示す大きな指標であり、まさに成長の過程を見守りながら応援を行う文化であると言えるだろう。2011年に行われたAKB48選抜総選挙にて2位を獲得した大島優子が「私たちにとって票数というのは皆さんの愛です。」とスピーチをした(ORICON NEWS 2011)ことは、当時も大きな話題を集めた。ファンの愛がアイドルをトップに押し上げていく、という抽象的な感覚を票数(CDの購入枚数)として具体的にし、ファンのやる気を経済行動につなげる一大イベントとして位置づけられた選抜総選挙は、ファンがアイドルの成長に直接かかわることができるという感覚を強くさせるものであったと考えることができる。太田は、AKB48とそのファンの関係性について以下のように述べている。

 

ファンがAKBにコミットすることは、アイドルがアイドルであり続けるその過程を、

ともに経験することを意味する。こうしてファンは、アイドルが成長し、人気者になっていくというストーリーの中で、ただ応援するだけというよりは、アイドル本人の希望や不安まで共有するような、パートナー的な存在になったのである。(太田 2011)

 

一方的に応援をするだけでなく、アイドルの成長過程において存在する挫折や苦しみも一緒に経験することで、負の感情すらも共有し“共に歩んでいる”というような感覚を抱きながらファンが応援を行うことにより、好意や競争心などをより深いものにすることができると考えられる。

「会いに行けるアイドル」というコンセプトで活動を始めたAKB48だが、規模が広がったことによりチケットが入手困難になったことなどから、YouTubeGoogle+を用いた、いわば非接触的なSNSコミュニケーションも用いながら、ファンと直接繋がりを持てる工夫が施された。

 

AKB48の場合、従来のアイドルと異なり、テレビ番組や歌番組などマスメディアでの露出よりも、「ユーチューブ (政見放送)」や「Google+」 などのインターネットや、秋葉原ドン・キホーテ」8階にある「AKB48劇場」やCD 購入者を対象とした「全国握手会」など「ライブ・イベント活動」の影響の方が大きいと指摘されるが、本稿での実証結果もこれを裏付けており、今後のアイドル・プロモーションにおけるメディア選択の方向性の一つを示したと言える。(植田 2013)

 

植田によると、従来のアイドルとは異なったアプローチの方法を持っているAKB48の存在は、女性アイドル界に大きな影響をもたらした。一方、AKB48の公式ライバルグループとして誕生した乃木坂46をはじめとする坂道シリーズは、専用劇場が存在せず、選抜に直接ファンが介入する機会もない。坂道シリーズの選抜決定の基準は公開されていないものの、握手会等の売り上げが関連しているのではないかといわれており、公表されていない形であろうと自分たちが行った消費行動がアイドルの活躍範囲に直接繋がっているという数字貢献的側面もファンの競争心に火をつける一因であると考えることができるだろう。

 

2-4 オーディション番組

1971年に日本テレビ系にて放送開始された『スター誕生!』は、後に「伝説のオーディション番組」と呼ばれるほど一時代を築き上げる番組となる。従来のアイドル的な歌手やタレントは、テレビの外側で発掘および養成され、結果としてテレビに出演するのが普通であったが、『スター誕生!』においては、アマチュアの少年少女が選抜され、デビューし成長を重ねていく段階を上演し、スターの発掘および養成が終始一貫したショーとして放送された(周東 2022)。

近年では、2017年放送開始のテレビ朝日系『ラストアイドル』、2020年配信/放送開始の『Nizi Project』、2021年放送開始のTBSテレビ系『TBSスター育成プロジェクト―私が女優になる日』、2021年配信/放送開始の『THE FIRST』をはじめとして、アイドル、俳優、アーティストと多岐に渡るオーディション系番組が放送およびインターネット配信されている。また、2019年に配信/放送開始された『PRODUCE 101』シリーズでは「国民プロデューサー」と呼ばれる視聴者の投票によってデビューメンバーが決まるという形態がとられている。

 

第3節 「推し活」市場の展開

2020年に宇佐見りん著『推し、燃ゆ』が芥川賞を受賞したことや、「推し活」が2021年の新語・流行語大賞にノミネートされたことなどから「推し」という言葉への関心が深まった。2022年の「日経クロストレンド」の調査によると、Z世代の35.6%、3人に1人が「推し活」をしているという結果が出ており、「推し活」をしてみたいと思っている人は11.5%、「推し活」に興味がある人は13.1%、全体の約6割が「推し活」に少なくとも何らかの関心を持っているということが分かる(下図)。

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街を見ても「推し活カフェ」や「推し活グッズ」などの文字が目に入る機会はここ数年でグッと増えただろう。ブームに乗るようなビジネスやサービスも増えており、その波が何らかの影響を及ぼしていることも考えられる。本節では、近年の推し活市場の展開について扱う。

1998年に起こった東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の犯人である宮崎勤元死刑囚の部屋に大量のビデオやアニメが溢れていたことから「おたく」という流行語が生まれた。同時に、自分の趣味の世界に閉じこもり、他人との接触を極端に嫌う若者像を「おたく」と示すようになり、以降「おたく」はマイナスイメージを持つ言葉として用いられるようになった(『日本経済新聞』1997年4月14日夕刊16面)。しかし、アニメ文化、漫画文化がクールジャパンとして戦略化されたことや、アイドル文化の発展が起こったことで「推し活」は大きな影響力を持つ。

 

若者のヲタ活は、心の豊かさやゆとりを大切にしつつ今を楽しく過ごしたいという現在享楽的な欲求と、関心のある相手や社会から認められたいという承認欲求の現れである。現在享楽欲求と承認欲求が根本にあるからこそ、推しが社会的に認められる過程を自分も伴走しながら楽しむために、献身的に対象を「推す」のである。(大山・長田 2020)

 

自分の好きな対象をプライベートとは別世界に持つことで幸福を得たいという気持ちの他にも、自身の承認欲求を推し(憧れの相手)に投影し、社会的に認められる推しを見て欲求を満たす部分が存在するということである。

 

第4節 先行研究のまとめ

以上3節にて述べてきたように、ジャニーズJr.という存在が形を変えながら長い間存在してきていたこと、成長を見守る応援スタイルが各ジャンルにてそれぞれ存在、定着していることが分かった。また、ジャンルごとにファンの”応援したい”という気持ちをより加速させるような理由、戦略と、未熟な存在の成長を見守ることでファンに満足感を得てもらう構造がはっきりしており、それぞれに特徴的な面を持ちながら【応援される存在-応援するファン】の関係性を築き上げている。ファンは、自分の応援する対象が成長している姿に共感し、時には自分を重ね合わせることで、共に成長している感覚を味わい、一種の達成感を感じているとまとめることができる。

一方で、これだけの多様な応援文化が存在する中で、ジャニーズJr.を応援するファンがどのような価値観を持っているのかという点については明らかにされていなかった。

 

 

第3章 RQと調査の概要

 

第1節 RQと仮説

前章までにまとめた研究背景と先行研究を踏まえたうえで、本研究では以下の2つのRQとそれに対応する仮説を立てた。

 

RQ1: ジャニーズJr.という未完成な存在を応援するファンは、ジャニーズJr.を応援するということに関してどのような価値観を持ち、どのような活動および消費行動を行っているのか。

RQ2: ジャニーズJr.を応援することで満たされているファンの感情は何か。

 

仮説1: ジャニーズJr.のファンは、コンサートや舞台の公演数が多く、会場の規模が小さいためにタレントとの距離が近いジャニーズJr.に魅力を感じており、コンサートや舞台などのいわゆる「現場」に足繫く通っているのではないか。

仮説2: ジャニーズJr.のファンは、未完成な存在であるタレントを自らの応援によって”完成”に近づけていくプロセスに価値を感じており、”完成”の第1ステップであるデビューを目指して「私がやらなきゃ」というような使命感に基づいた活動および消費行動を行っているのではないか。

仮説3: 満たされているファンの感情として、好きであるために得られる幸福感はもちろん、ジャニーズJr.が目指す「デビュー」という大きな目標を叶えるためにファン自身も様々な活動を行うことで、大きなプロジェクトに歯車のひとつとして参加しているような感覚や達成感があるのではないか。

 

仮説1は、デビュー済みのジャニーズグループが好きで、何らかのきっかけによってジャニーズJr.を好きになったというジャニーズJr.ファンが自身の周りに多いことから考えた。先行研究で取り上げたように、インターネットおよびSNS社会が発達する現在でも、ジャニーズタレントと相互コミュニケーションを取る機会は存在しない。SNSアカウントや動画配信サイトが整備されても、コメントへの返信やダイレクトメッセージなどでの個人のやりとりが行われることはなく、タレント側からの一方的な発信や返答としてもファン全体向けの発信という形がとられているところが特徴的な点である。接触や会話ができず、雲の上の存在に近いジャニーズであるが、ジャニーズJr.はデビューグループに比べて現場が多く、会場のキャパシティも狭いため、ファンサービスを貰いやすい。ジャニーズJr.特有の会場の狭さ、タレントとの物理的距離の狭さ、ファンサービスの貰いやすさに惹かれているファンがいるのではないかと考えた。

仮説2は、伸びしろが多いからこそ多くの成功体験を共に経験できる(例: 個人グッズが売り切れた、初めての単独公演が決まった等)点に魅力を感じ、人気が出るまではファンの数も少ないため、自分が何かの行動を起こすことでタレントの成功体験につながる!と感じる人が多いのではないかと考えた。また、タレントが成功していく瞬間をリアルタイムで見守ってきたという古くからのファンのマウンティング的感情も含んでいるのではないかと推測した。

仮説3は、「デビュー」というとても大きな目標を掲げているからこそ、タレントの夢を叶えたい!とSNSでの発信活動や消費活動を精力的に行うようになるのではないかと考えた。ファン同士はもちろん、タレントとも肩を組んで一緒に目標に向かって頑張っているような文化祭準備に近い感覚を感じているのではないかと推測した。

 

第2節 調査方法と調査対象

本研究では、ジャニーズJr.を現在応援しているファン260人への記述設問式アンケートを用いて分析する。本研究において、インタビュー調査ではなくアンケート調査を選択した理由は、より多くのファンの価値観や行動を調査するためである。Googleフォームを用いて、9月1日~9月10日の10日間で匿名回答のアンケート調査を行った。自分自身がファン当事者として普段から利用しているX(旧Twitter)アカウントにて、アンケートフォームおよび調査協力へのお願いの旨を投稿した。拡散してくれるファンも多くいたため、自分の所属しているコミュニティよりさらに広い範囲での回答を得ることができ、多彩な意見が溢れる回答となった。

今回は、対象者を「現在、ジャニーズJr.を応援している」人に限定して調査を行った。また、アンケート内で使用する「応援」という言葉に関しては、「「推す」「好き」などの気持ちを持つことに加え、発信活動(自己満足の記録も含む)および消費活動を行っていること」と定義し、各質問を設定した。インフォーマントの89.2%が10代~20代の女性であることも分かった(下図)。

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第3節 調査項目

先述したように、「推す」「好き」などの気持ちを持つことに加え、発信活動(自己満足の記録も含む)および消費活動を行っていることを「応援する」ことと定義したうえで、アンケート調査では以下の質問項目を設けた。

 

  1. 性別
  2. 年代
  3. 現在応援しているジャニーズは何人いるか
  4. 現在応援しているジャニーズの名前
  5. 4で記入したジャニーズを応援するようになったきっかけ <記述式>
  6. 応援しているジャニーズがデビューした場合、どうするか
  7. 応援するにあたって行っていること
  8. 応援するにあたって何にお金を使っているか
  9. 応援するにあたって、ネット上で気を付けていること <回答必須 記述式>
  10. 応援するにあたって、現場(コンサートや舞台など実際のイベント会場)で気を付けていること <回答必須 記述式>
  11. 自担[筆者注: 自分の応援しているアイドルのことを指すジャニーズファンの間で用いられる言葉]を応援していてよかった!と思う瞬間 <回答自由 記述式>
  12. デビューしたジャニーズタレントではなく、ジャニーズを応援している理由 <回答自由 記述式>
  13. もし、家族 友人 恋人に、ジャニーズへの応援行動を良い目で見られなかった場合どうするか <回答自由 記述式>
  14. あなたにとって「応援する」とは何か <回答必須 記述式>
  15. その他 「応援」に関して何か日々感じていること <回答自由 記述式>

 

調査は卒業論文執筆のために行っていること、卒業論文執筆以外の用途で使用しないことをアンケート冒頭に記載している。また、追加調査が必要になった際に協力いただけるインフォーマントには連絡先の記入をお願いしており、興味深い回答があった場合には適宜追加での質問を行っている。これらの質問と、ファンの実際の言葉をもとに、次章以降で調査の分析を行っていく。

 

第4章 ジャニーズJr.を「応援する」ということ

本章の目的は、ジャニーズJr.を応援するファンが応援対象のタレントに出会ったきっかけと、応援を行う上でどのような未来性を感じているのかを明らかにすることである。

また、後半部では「応援する」ということについてファンがどう考え、何を感じているのか、またそれがどのような行動に結び付いているのかを分析する。

 

第1節 応援のきっかけについて

本節では、現在ジャニーズJr.を応援しているファンが、ジャニーズJr.を応援することになったきっかけについてまとめていく。

もともとジャニーズが好きで、そこからジャニーズJr.を知ったというケース、テレビやSNS等のメディアによってジャニーズJr.を知ったケース、大きく分けて2パターン存在することが分かった。以下では細かい分析を行っていく。

 

1-1 先輩グループの存在

もともと応援しているジャニーズグループ(以下、「先輩グループ」表記とする)があり、先輩グループを追っている段階でなんとなく触れたコンテンツによりジャニーズJr.を知り、好きになったという層が圧倒的に多かった。

 

「以前応援していたデビュー組[筆者注: メジャーデビュー後のジャニーズタレントのことを指す語]の人を応援していて、ジャニショ[筆者注: ジャニーズの公式写真やグッズを販売するジャニーズショップの略]に行った際販売されていた公式写真に惹かれて」

「有料ブログの文章の雰囲気が素敵で」

 

ジャニーズJr.は、あくまでもジャニーズという大きなくくりの中で、研究生や練習生的立ち位置で活動をしているため、先輩グループを応援するにあたって足を運んだジャニショで自分の好みのタレントを見つける、月額費を払うことでジャニーズタレント全員のブログを読むことができる有料ブログサイトで偶然自分好みのタレントを見つけるという現象が起こりやすいことが分かった。新規参入層を取り込むような仕組みというよりは、もともとジャニーズのファンである層に応援する対象を増やしてもらう仕組みに近いのかもしれない。

以下は、もともと応援していた先輩ジャニーズグループのコンサートや舞台に足を運び、バックダンサーとして出演していたジャニーズJr.を好きになったファンの例である。

 

「先輩ツアバ[筆者注: ツアーバックの略。以下で詳しく説明]についてて、1番真剣に踊っていた姿に惹かれた」

「先輩グループ目当てで観に行ったときに」

「SexyZoneをずっと応援していて、その後ろに着いていた時に存在を認識しました!」

「先輩グループの舞台でバックについていて」

 

ジャニーズJr.は先輩のコンサートや舞台のバックダンサーとしてパフォーマンスをする機会も多い。ドームツアーやアリーナツアーなどの全国ツアー公演に帯同し、地方公演に出演するジャニーズJr.はツアーバック、略してツアバと呼ばれる。公演によるが、ツアバのジャニーズJr.のみがステージに上がり、数曲パフォーマンスする時間が取られる場合もあり、公演終盤には出演ジャニーズJr.として名前と顔が紹介されるパターンが多い。ジャニーズJr.にとって先輩グループのバックにつくという機会は、バックダンサーとしてコンサートという生ステージを経験し経験を積む時間であると同時に、新しいファン層を獲得するチャンスでもある。ジャニーズJr.とそのファンにとっては、メインステージがないバックダンサーであっても、大切な現場の1つであるため、先輩グループのファンではないジャニーズJr.ファンがツアバ目当てで会場に出向き、数曲の為にジャニーズJr.の団扇を掲げるというケースも稀ではない。むしろ、とても貴重な機会であるため、タレントからの認知が欲しい、ファンがいると伝えたいという目的で、目当てのジャニーズJr.が出演する曲の立ち位置を狙い、会場内で席を交換したり、高額転売されているステージ近くの席を購入するファンすらも存在する。

また、2023年夏に開催された「ミライBoys 24」の『サマステライブ2023 俺たちがミライだ!!』では、先輩ジャニーズJr.が「PAISEN応援隊」として日替わりで出演する応援演出が行われた。メインキャストのミライBoys 24は入所から1番長くても5年ほどのジャニーズJr. 24人で構成された期間限定ユニットであり、日替わりで先輩ジャニーズJr.が1人ずつ出演し、数曲ずつ一緒にパフォーマンスするという公演の形がとられた。PAISEN応援隊として公演に出演する先輩ジャニーズJr.のファンは、自分の担当[筆者注: ジャニーズファンが自分の応援しているタレントを指すときに使う語のこと]が応援出演する回のチケットをそれぞれ購入し、会場に出向くことになる。この応援企画が発表されたことで先輩ジャニーズJr.ファンも観客として取り込むことができたため、公演に足を運ぶファンが増え、チケットは全日程完売となった。また、公演後にランダムで選ばれたジャニーズJr.数名がファンたちをお見送りしてくれるという企画も行われた。ジャニーズでは基本的にこのようなイベントがないため、ファンの中でも大きな衝撃を呼んだ。会場でパフォーマンスを見て、お見送りで目を合わせながら手を振られて、気になるジャニーズJr.を見つけ、応援を始めたというファンも多く存在し、新しいファン層を取り込む企画として大きな結果を出したと言えるだろう。以下は、実際にこのコンサートで新しいジャニーズJr.を好きになったというファンの回答である。

 

「サマステのPAISENを見に行った時」

「2023のサマステのパフォーマンスやお見送りで」

 

規模が大きな事務所であるために、先輩後輩やグループの垣根を越えて交流があり、先輩ジャニーズタレントが語ったエピソード伝いでファンに存在を知られるジャニーズJr.も多い。次に取り上げるのは、自分の担当であったジャニーズタレントが接点を持つジャニーズJr.の応援を始めたファンの発言である。

 

「当時好きだった櫻井翔さんを憧れの先輩にあげていたから」

Snow Man阿部亮平くんが推してるJr.に井上瑞稀くんの名前を挙げているのを見て、いろいろ調べていたら好きになりました。檜山光成くんも同じ流れで、井上瑞稀くんが推してるJr.に檜山くんの名前を挙げていたため」

 

バックについたことや番組で共演したことなど仕事の交流で先輩後輩の仲が深まるケースもあれば、後輩ジャニーズJr.からの猛アタックにより先輩タレントと距離を縮めるケースもある。かわいがっている後輩にレッスン着や私服のおさがりをあげるというのはジャニーズの鉄板ネタであり、「○○からもらったおさがりです!」と自慢げに語るジャニーズJr.も多く存在する。

バックダンサーとして舞台に上がるという出来事は、先輩タレントのステージを盛り上げる演出の1つでありながら、ジャニーズJr.にとっては現場経験およびファン獲得の機会として、ファンにとっては新しい出会いのチャンスとして、様々な側面で大きな役割を果たす。ジャニーズJr.をコンサートのバックにつけている先輩ジャニーズJr.グループ『HiHi Jets』も雑誌のインタビューで以下のように語っている。

 

橋本涼「僕もHey!Say!JUMPさんのライブに出たときのことを今でも覚えているし、一生忘れない。誰かにとってのそういう現場を増やしていける人間でいたいです」

猪狩蒼弥「(中略)僕らは、後輩の子とワーって出て、(ポーズを決めながら)バッ!ジャジャーン!みたいのが合っていると思う。教育するとかじゃなく、ただ『ライブって楽しいんだよ』って、ちっちゃい子たちにも感じてほしいんです」(新 2023:104)

 

自身がジャニーズJr.としてバックで出演したときの景色が忘れられないと語るタレントは多く、ジャニーズJr.グループのHiHi Jetsメンバーは現場の楽しさを「ちっちゃい子たちにも感じてほしい」ことから、アリーナ公演では必ず後輩ジャニーズJr.をバックに着けている。オープニングアクトや前座として本編前にステージ出演する形ではなく、本編出演者の1ピースとして動くバックダンサーとしてのジャニーズJr.は、バックダンサー以上の価値を持つものなのかもしれない。

 

1-2 メディア露出

メディア露出が多く、何かのきっかけで見かけたジャニーズJr.を好きになったという声も多くみられた。ジャニーズJr.がメイン/レギュラーで出演する番組を観た、バラエティやドラマに出演する姿を観た、たまたま買った雑誌に掲載されていたなど様々な要因が存在するが、「ジャニーズJr.」という土台がはっきりしてきたからこそメディア露出の機会が増えてきたとも考えることができる。

 

「もともとJr.ではないグループを推していて、ザ少年倶楽部を見る機会があったのですがそこで「名脇役」を歌っている彼を見て一目惚れ(?)しちゃいました!」

「嵐目当てで買った雑誌に載っていた」

 

前項と少し被る部分があるが、もともと好きだった先輩ジャニーズを追っていた際に現在好きなジャニーズJr.に出会ったファンたちは上のように述べている。

2000年放送開始 NHK『ザ少年倶楽部』は、ジャニーズJr.がメインで出演し、NHKホールで番組独自のステージショーを繰り広げるレギュラー放送の音楽番組である(NHK 2023)。グループを結成したジャニーズJr.から、入所して間もないジャニーズJr.まで、様々な年齢層のジャニーズJr.たちがパフォーマンスを行う。グループごとにオリジナル曲およびオリジナル衣装を持っている場合もあるが、数としては少ないため披露されるほとんどの曲は先輩ジャニーズグループのカバー曲であり、先輩のおさがりの衣装を着ているケースも多い。デビュー後の先輩ジャニーズグループがゲスト出演を行う回や、MCとして参加する回もあるため、ジャニーズJr.ファンに限らず、先輩ジャニーズファンも視聴する機会が多いとみられる。上で引用したケース以外にも、ザ少年倶楽部を視聴していて気になるジャニーズJr.を見つけたという回答は数多くみられた。毎月1回 観覧収録が行われているという点、週1回の頻度で放送されるという点も含め、コンサートに比べて気軽にジャニーズJrのパフォーマンスを見ることができるコンテンツであると考えられる。

また、ジャニーズ系雑誌の存在も欠かせない。「ジャニーズ5大雑誌」と呼ばれる『Myojo』『Duet』『ポポロ』『WiNK UP』『POTATO』は、ジャニーズがメインの雑誌となっており、構成されるほとんどのページがジャニーズタレントで埋められている。ジャニーズファンをターゲット層にしているという前提の上で、デビュー組/ジャニーズJr.に関わらずグループごとにそれぞれの特集ページが組まれる他、舞台やコンサートのレポート記事、グループの垣根を超えたメッセージ交換企画などが組まれており、記事内でのインタビューでもジャニーズタレントの名前が出されることが多いため、自分の好きなタレントと交流のあるジャニーズを知るチャンスは多く存在する。また、ドラマおよび映画出演をきっかけに各種エンタメ雑誌に出演するタレント、長身を生かしてモデル活動を行なうタレント、文才を生かしてエッセイを書くタレントなど 自分の得意分野を仕事に繋げて多岐に渡って活動を行っていることも、新規層獲得に繋がっていると考えられる。

 

1-3 周囲の友人

周囲の友人に紹介されたことをきっかけとして挙げているファンも多くみられた。

 

「友だちにおすすめされてライブ配信を見たりコンテンツを追っているうちに」

「友達にDVDを勧められて見てから」

「友達に誘われたライブに入って」

 

他のアイドルやデビュー組のジャニーズグループと比べると比較的ディープな世界であるため、初見の状態でジャニーズJr.の世界に飛び込むというよりも、友人に勧められたという入り口が多いことが分かった。動画配信サイト『ISLAND TV』の設立、コロナ禍をきっかけに多く行われるようになったライブ配信も、ほとんどが有料配信であったため、もともとファン層である友人をきっかけに視聴というケースが多いことが考えられる。デビュー組のコンサートツアーの多くは円盤化されるが、ジャニーズJr.の場合、映像に残るとも限らない。コンサートや舞台が円盤化される場合も、ほとんどが期間限定受注生産になり、機会を逃すとフリマサイトなどでは高値で取引されるため、もともとファンであった友人が身の回りにいるかいないかは、過去のコンテンツを追っていく際に大きな差を生み出す。

また、ジャニーズJr.の特徴として、長期休みに合わせて行われる長期公演が多いということが挙げられる。ジャニーズJr.として活動するタレントの多くは学生であることもあってか、春休み、夏休み、冬休みなどの長期休み期間に、会場を1ヶ月前後貸切って行われる毎年の風物詩的イベントが多い。六本木EXシアター、東京ドームシティーホール、新橋演舞場、帝国劇場、東京グローブ座大阪松竹座日生劇場など、東京と大阪を主な拠点に様々な場所でコンサートや舞台が行われている。昼夜2回公演がスタンダードであり、平日公演も存在するため、日程や会場のキャパシティ、ファンの多さなどによってチケットが余る公演も生まれる。取ってしまったチケットを捌くため、空席をなくすために、友人を誘うというケースも少なからず存在するようだ。

 

1-4 YouTubeSNSなどのネットワーク発達

公式インターネットサイト、YouTubeチャンネルやSNSアカウントの開設(詳しくは先行研究にて先述)がここ数年で進んだことは、ファンにとってとても大きな出来事だったという。まず、公式動画配信サイト『ISLAND TV』での動画視聴がきっかけであったファンを取り上げる。

 

「猪狩(先輩ジャニーズJr.)と撮ってるISLAND TVで存在を知り、コンサートで実際に見て好きになった」

「ISLAND TVの彼の自作動画を見て」

 

『ISLAND TV』では、タレント自身が撮影した動画が不定期で更新される。各仕事の宣伝やコンサート前後の裏側のコメント動画などの仕事に絡んだものから、仲の良いタレント同士のおしゃべり動画、演奏してみた系動画、数秒しかないInstagramのストーリーのような動画など多岐に渡る。ISLAND TVをプラットフォームに毎日更新などの企画を行うタレントおよびグループも存在しており、個性豊かな動画をいつでも手軽に楽しむことができるという点が魅力である。コンサートや舞台などの後には「今日は来てくださりありがとうございました!」という旨の動画更新が多く、先輩ジャニーズJr.のバックについていた後輩ジャニーズJr.が一緒に動画を撮ることで、お互いのファンにお互いを知ってもらおうというような動きが加速する傾向にある。第4章 1-1にて先述した『サマステライブ2023 俺たちがミライだ!!』公演の「PAISEN応援隊」企画では、特にその動きが活発化し、先輩ジャニーズJr.のファンに名前を覚えてもらいたいという意図から、出演した先輩ジャニーズJr.と毎日動画を撮るジャニーズJr.も存在した。無料で気軽に誰でも視聴が可能である点、気になったジャニーズJr.の出演動画をピンポイントで検索し、キャラクターを知ることができる点において、大きな力を持ったツールであると考えられるだろう。

また、YouTubeで配信されている動画をきっかけとして語るファンも多かった。

 

「コロナ自粛中でたまたまJrのYoutubeを見て。」

「公式YouTubeのパフォーマンス動画を見て」

 

ジャニーズJr.の公式YouTubeチャンネルでは、2023年10月現在、6グループが各曜日を担当し動画配信が行われている。トークやバラエティなどの通常動画をメインとし、パフォーマンス動画、ダンス動画、企業とのタイアップ動画などがアップされる場合もある。基本的に外部からMCやゲストなどが参加することはなく、グループメンバーのみでの撮影になるため、メンバー同士の仲の良さやリラックスした空気感あふれる10分~20分ほどの動画になっており、グループやタレントの雰囲気を知るにはうってつけのコンテンツになっている。また、今までコンサート、受注生産のDVDでしか見ることのできなかったライブでのパフォーマンスが動画としてアップロードされることで、「アイドル」としての魅力をより速いスピード感で世界中に提供できるようになったことも魅力的な点であると言える。

アカウント開設から調査時(2023年9月)まで、日が経っていないこともあり、数としては少なかったが、以下のようにSNSで流れてきたことがきっかけになったというファンの声もあった。

 

「ジャニーズJrの公式Tiktokで見て気になってそのノリで単独ライブに入ってハマりました」

 

公式SNSとは少し違う方向になってしまうが、SNSでファンが発信した動画がきっかけになったファンも存在した。2023年7月8月に開催されたジャニーズJr.単独のドーム公演『ALL Johnnys’Jr. わっしょいCAMP!in DOME』には、ジャニーズJr.総勢200名が出演した。この公演では、指定の時間のみ、ファン自身が持つ端末にて動画および写真撮影が許可された。ジャニーズのコンサート公演では基本的に、公演中はもちろん 公演前後も含めて会場撮影および録音が禁止されているため、パフォーマンス中にアイドルとして動いているタレントの姿を自分自身の端末で撮影できるという企画は、ファンに大きな衝撃をもたらした。撮影した動画および写真は、SNSでの拡散が許可され、ステージに近い席からの動画やファンサ中の動画が多く拡散され、話題を呼んだ。以下は、その撮影動画をSNSで見たファンの回答である。

 

「わっしょいcampでの撮影動画がTwitterで流れてきて、そこから気になりました!」

 

ファンの目線から撮影された臨場感満載の動画、普段気にかけていなかったメンバーのファンサの動画などによって心揺さぶられていたファンはSNSに数多く存在し、普段のコンサート後とはまた違った異様な雰囲気が漂っていたことは筆者自身も感じていた。チケットの争奪戦を勝ち抜いた限られた人だけが足を運ぶことができる”コンサート”という閉鎖的な空間を垣間見る余地が与えられたこと、ファン目線という1番輝く形で、本業のアイドル姿が全世界に発信されたことはとても大きな出来事であり、賛否両論を呼んだ。

 

「テレビで見て気になり、その後YouTubeや ISLAND TV、音楽番組、配信ライブを見て好きになった」

 

以上の発言から、これらのインターネットツールは、応援を始める第1歩のきっかけであると同時に“ちょっと気になるかも…”という状態のファンがさらに多くの情報を集めるための補助的ツールであるということも分かった。

 

この節では4項に分けて、ジャニーズJr.のファンがジャニーズJr.を好きになったきっかけについて分析を行った。もともとジャニーズが好きで目にしたジャニーズJr.に興味を持ったパターン、メディアでたまたま見かけたことで気になり始めたパターン、ジャニーズJr.が好きな友人の影響で興味を持つパターン、SNS上に溢れるコンテンツに触れたことがトリガーになったパターンと、ジャニーズJr.のファンになるきっかけはそれぞれに様々な切り口が存在した。一方で、その各切り口は、その後“応援したい!”と思わせるまで好意を深くしていく要因としても作用していることも分かった。

 

「ライブのバックについているのから気になり、YouTubeやアイランドTVを見て」

「テレビで見て気になり、その後YouTubeや Island TV、音楽番組、配信ライブを見て好きになった」

「音楽番組やドラマを観て気になりYouTubeを観て完全に好きになった」

 

何らかの形でジャニーズJr.の存在を知り、名前と顔が一致し、気になり始めたときに、ISLAND TVやYouTubeなどの動画コンテンツに無料ですぐ触れることができる点、各SNSで名前を検索すればファンによる拡散目的での投稿から情報を得られる点[筆者注: ゴールデン帯の人気番組および音楽番組等に出演した後の数時間は「金髪で何色の衣装を着ていた男の子は○○くんです」などという投稿などが目立つようになる]などは、”関心”を“好き”に近づけるのに重要な役割を持っていると考えられる。ジャニーズJr.によるインターネットプラットフォームが増えたことに加え、ファンが積極的にSNSを活用していることが大きく影響しているだろう。いろいろな方向からコンテンツ提供が絶えずありつづけることは、ジャニーズJr.を応援するという文化における1つの大きな特徴であると考えられる。

 

第2節 ゴールは「デビュー」なのか

本節では、ジャニーズJr.が目指す「デビュー」という目標をファン目線で分析していく。ここで使われる「デビュー」は、メジャーデビューのことを指す。

ジャニーズJr.は日々、メジャーデビューを大きな目標として掲げながら活動をしている。先輩のバックについて経験を積み、グループを結成、グループ単位で単独のコンサートなどを行い、ある程度の経験値とファンを獲得したうえで満を持してデビューという形が最近のケースであり、本人の実力以外にも、グループとしての知名度、ファンの多さなどが重要視されていると考えられる。グループ結成からの年月、メンバーの年齢などが必ずしもデビューの順番に直結する年功序列制度であるとも言い切れないため、タレント本人たちはもちろん、ファンもできるだけ背中を押せるようにと、SNSでの拡散および発信活動、グッズ購入などの消費活動に力を入れている。

前節にて少し触れたように、ジャニーズJr.であっても、各メディアへの出演や単独コンサートの開催など、十分に活動できる機会は存在するが、オリジナルの楽曲がCDとしてリリースされること、シングルごとにMVが制作されること、オリジナルアルバムをリリースできること、社会的な知名度が上がることなど、デビューには様々なメリットが存在する。また、2021年に導入発表が行われ、2023年3月31日から適用されたジャニーズJr.の「22歳定年」制度の存在も、タレントやファンの気持ちを焦らせている一因として考えられる。この制度は、満22歳到達後最初の3月31日までに、ジャニーズJr.本人と事務所が活動継続について話し合いを行い、合意に至らなかった場合は活動を終了するというものであり、タレントにとっては事実上の肩たたきシステムになっている(中日新聞Web 2023)。ジャニーズJr.として活動を行っていても、グループに所属していたとしていても、必ずしもデビューが確約された状態ではないため、デビューが難しいタレントにとっては将来の軌道修正が行えるというメリットもあるが、多くのジャニーズJr.は、小学生、中学生の時期からジャニーズJr.に所属し、一般学生としての青春時代をなげうって活動を行ってきているため、それほど簡単にあきらめきれる夢でもないというのが現実である。自分の応援しているジャニーズJr.に夢を叶えてほしい、アイドルとしてステージに立ち続けてほしい、そしてなるべく早くデビューしてほしいというファンの思いは益々強くなったと考えることができるだろう。

「応援しているジャニーズJr.がデビューしたらその後はどうするか」という質問に対し、「デビュー後も応援し続けるつもりでいる」「デビューしたら応援はやめるつもりでいる」「応援し続けるかはわからない」「他のJr.に降りる[筆者注: 現在応援しているジャニーズタレントの応援をやめることを指す語。ここでは、現在応援しているジャニーズJr.の応援をやめ、他のジャニーズJr.を応援する意で使った]」の4つの選択肢を提示、その他の選択肢として自由記述を設けた。

「デビュー後も応援し続けるつもりでいる」とデビュー後の応援に関して前向きな姿勢だったファンは81.9%だった。一方で、「デビューしたら応援はやめるつもりでいる」「他のJr.に降りる」「デビューコン[筆者注: メジャーデビュー後の最初のコンサートのこと]で降りる」と、応援している現時点でファンとしてのゴールを決めているファンの回答も1.2%存在した(下図)。

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タレントとファンが共有している大きな目標として意識しながらも、成長途中の「ジャニーズJr.」であるという点に価値を見出しているわけではなく、そこは1つの通過点であり、デビュー後もまだまだ応援活動を続ける意欲を持ったファンが多いことが分かった。

一方で、「デビュー後も応援し続けるつもりでいる」と回答したファンが、「Jr.だから熱心に応援しなくてはと思うのかもしれない」と冷静に自己分析を行っている興味深い回答もあった。

 

「かつてJr.時代に応援していたグループがデビュー後とても人気になって冷めてしまった。当時は自担がテレビやラジオに出るたびにお礼ハガキを書いているほどだったのに。当時あまり波に乗れていない姿を見て応援しようと思っていたのだと、人気になった今私の応援はもうこの人たちには必要ないなと思って降りたことを思い出しました。Jr.だから熱心に応援しなくてはと思うのかもしれません。」

 

反響があるということを制作サイドや企業に伝えたい目的から、番組出演後およびCM起用後に、放送局や企業にお礼のメールを送るファンや番組出演要望のメッセージを送るジャニーズJr.のファンは多い。この回答をしたファンは、かつて好きだったジャニーズJr.グループを応援する一環としてそのような活動を積極的に行っていたというが、デビュー後人気が爆発したタイミングで冷めてしまったという。理由として「当時あまり波に乗れていない姿を見て応援しようと思った」「人気になった今私の応援はもうこの人たちには必要ない」と感じたことを挙げており、自分の応援がタレントの人気を押し上げる手助けになっていると感じることのできる、一種のやりがいのようなものがファンの応援活動の原動力になる可能性も考えられる。

デビューを迎えた際に結果として応援活動がどう変化していくのか興味深い点ではあるが、現在ジャニーズJr.を応援している人にとって、デビューは大きな目標ではあるものの応援活動としてのゴールには成り得ないと考えられる。

 

第3節 応援活動

本節では、ジャニーズJr.のファンが行っている応援活動についてまとめる。なお、分析内で使用したアンケートの詳細は以下の通りである。

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3-1 「幸福感を得るための」活動

複数回答可とし、現在好きなジャニーズJr.タレント/グループを応援するために行っている行動として多くのファンが回答したのが「コンサート等に行く」(92.7%)、「グッズ等を購入する」(96.9%)、「テレビやラジオ・動画等を視聴する」(95.0%)というものだった。また、74.6%のファンが「自己記録としてSNSやブログの更新」を行っていると回答した。そのほか自由記述として、「お誕生日や結成記念日などに歌詞動画を作る」「ファンアートを描いてます」「ファンレターを送る」などの回答も見られた。

 これらは、ファンが自身の癒しやエネルギーとしてアイドルを鑑賞する 「幸福感を得るための」活動であると言える。

 

3-2 「タレントの背中を押すための」活動

77.3%のファンが「Jr.大賞や国宝級(正しくは国宝級イケメンランキング)の投票」を行っていると回答した。「Jr.大賞」は、アイドル雑誌『Myojo』にて行われるジャニーズJr.のメンバーを対象にした読者投票企画である(ORICON NEWS 2023)。雑誌1冊につき1枚投票用紙がついており、”弟にしたい” “ダンスがうまい”など50以上の部門で、タレントの性格や個性に合わせてファンが投票を行う企画となっている。”恋人にしたい”部門は実質上の人気投票となっており、この部門で1位をとるとデビューできるというジンクスがあるため、タレントもブログやISLAND TVにて宣伝を行ったり、何百冊単位で雑誌を購入して投票に挑むファンも多い、一大イベントである。

「国宝級イケメンランキング」は雑誌『ViVi』にて年2回上下半期に行われるインターネット投票企画となっており、投票を元に、話題性や活躍度(出演作品数、CM本数、SNSトレンド入り、媒体露出など)を加味したうえでランキングが発表される(ViVi 2023)。俳優やモデル、他事務所のアイドルなどもランキングに参加するため「Jr.大賞」に比べ、他ジャンルのファンも参加することが多く、世間的な認知度、話題性の高いランキングとなっている。

「Jr.大賞」「国宝級イケメンランキング」どちらのランキングも、上位に食い込むことによって話題性を得ることができる点や、その後の雑誌掲載等の仕事につながりやすい傾向がみられる点が特別視されており、投票以外にも、宣伝用の動画や画像を発信し得票数アップにつなげる活動を積極的に行っているファンは多い。24.2%のファンが「ステマ等の宣伝・拡散目的での発信」を行っていると回答している点からも明らかである[筆者注: ここでいう「ステマ」とはファンの中で「ステマシート」と呼ばれる宣伝用画像のこと。]

これらはあくまでも”この先もタレントにアイドルとして活動し続けてほしい”という希望を根底に持つファン自身の自己満足に基づく行動であるが、前項で取り上げた事例と比べると「タレントの背中を押すための」活動として位置づけることができる。

 

第4節 消費行動

本節では、ジャニーズJr.のファンが行っている消費行動についてまとめていく。なお、分析内で使用したアンケート結果の詳細については以下の通りである。

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4-1 「幸福感を得るための」消費行動

複数回答可とし、現在好きなジャニーズJr.タレント/グループを応援するためにお金を使っていることとして多くのファンが回答したのが「公式の写真やグッズなど」(94.6%)、「コンサートのチケット代」(91.5%)、「情報局[筆者注: ジャニーズJr.の公式ファンクラブ「ジャニーズJr.情報局」の略]の入会・更新」(91.5%)だった。それに伴い、コンサート先への「遠征費」という回答も多かった(75.0%)。また、「雑誌」も60.8%のファンが回答しており、各種雑誌はジャニーズJr.を応援する上で欠かせないメディア媒体であることがうかがえる。

 

4-2 「タレントの背中を押すための」消費行動

今回の調査では、行っている応援活動と消費行動の質問項目において、考えられる選択肢を提示したうえで、選択肢にないものがあればその他欄に記入してもらう(複数選択可)という形をとった。ジャニーズJr.のファンにとって、前節で扱った「Jr.大賞」の存在はとても大きなものであるとファン当事者である私自身が日々感じていたため、選択肢に「雑誌」と「Jr.大賞などの投票に関する雑誌購入」を分けて提示したところ、両方ともほぼ同数の割合での回答を得た。ファンは自身が幸福感を得るために行っている消費行動と、数字という面でアイドルに貢献できる消費行動を分けて考えており、どちらも両立する形で「応援」を捉えているということが分かる。

また、自由記述欄では「プロモーションした商品の購入」「YouTubeなどで提供くださった企業様の商品を買う」などの回答が目立った。CM起用された企業、公式YouTubeチャンネルでコラボした企業の商品を買うことで、タレント起用の影響力を示すことができるよう心がけていることが分かる。

 

 

第5章 満たされている感情

本章の目的は、前章で扱ったジャニーズJr.を「応援する」という行動によって満たされているファンの感情はどのようなものなのか分析することである。

本研究で明らかにしたいのは、成長途中の未完成な「ジャニーズJr.」という存在を応援することで満たされているファンの感情である。そのため、「デビュー組ではなくジャニーズJr.を応援している理由があれば教えてください」という設問(回答必須)に対して、一定数存在した「好きになったのがたまたまジャニーズJr.だった」という旨の回答は除いた上で分析を行う。

 

第1節 現場での充実感

ジャニーズファンが用いる言葉の中に「オフシ」というものがある。「オフシーズン」の略であり、コンサートや舞台などの現場がない時期のことを指す。活躍に様々なフィールドが存在するといえど、アイドルであるジャニーズタレントにとってのメインステージはコンサートや舞台などの現場であるという認識を示す言葉である。

本節では、ジャニーズJr.ファンが感じている、コンサートや舞台などの現場での充実感についてまとめる。

 

1-1 数の多さと距離の近さ

ジャニーズJr.の特徴的な点である“現場の多さ”と“会場の小ささ”に魅力を感じ、コンサートで得られる幸福感に重点を置いているファンはとても多かった。ジャニーズJr.は、先輩のバックについて回るツアー以外にも、ジャニーズJr.内グループの単独コンサート、ジャニーズJr.で代々受け継がれている舞台・外部舞台への出演等があるため、年1~2回のアリーナツアーやドームツアーをメイン仕事とするデビュー組に比べて圧倒的に現場数が多い。

 

「会場が比較的狭く楽しい、多い時は春夏秋冬現場がある」

「距離が圧倒的に近い、距離が遠いと現場にいっても疎外感がありむしろ嫌な気持ちになるが、ジュニアは大抵どこの席でも泣くほど悔しい思いをすることは少ない」

「近くで会える」

 

アイドルの本業である生のステージパフォーマンスに価値を感じ、物理的距離の近さを幸福感に直結させているファンは多かった。ジャニーズJr.現場の多くは東京で開催され、関西で活動する関西ジャニーズJr.現場は大阪で開催される。デビュー組のようにツアーで全国を回るという機会も多くはないため、自担の現場のために毎週遠征するファンも少なくはない。ここでいう「距離」は、自宅-会場ではなく、自分-自担の間を示す言葉なのだ。ステージと客席の距離が近いため、臨場感があるパフォーマンスが楽しめること、距離が近いためにファンサーがもらいやすいことは、大きな魅力であると言えるだろう。ジャニーズ事務所では、直接会話する機会および接触できるイベントがないため、タレントに指をさしてもらう、タレントと目が合う、自分が掲げるうちわに書いたリクエスト(「一緒にハート作って」「○○ポーズして」など)に応えてもらうなどの数秒が、唯一のコミュニケーション機会となり、その一瞬にかけて現場に足を運ぶファンも多い。自担を応援していてよかったと思う瞬間に「ファンサをもらえた瞬間」と回答したファンも多く、アイドルとファンの近さがあってこそ感じられる喜びなのかもしれない。

ジャニーズファンにとって現場は、パフォーマンスを見ることができる機会である以上に タレントに”会える”場所であるという認識が強い。自担の好みに合わせた洋服を選ぶファン、メンバーカラーに全身身を包むファン、コンサート前日に美容室やネイルサロンに足を運ぶファン、開演直前に手鏡を見て容姿を整えるファン…一瞬でもタレントの目に入るかもしれないと準備を行うファンは、デートに向かう女の子さながらである。

いずれの理由にしても、年間の現場数や現場における自分とジャニーズJr.の距離感は、ジャニーズファンによって大事なコミュニケーションのひとつとして位置づけられており、充実感に繋がるものであると言える。

 

1-2 コンサートの内容

ジャニーズJr.ならではのコンサート内容に魅力を感じているファンの声も多い。

 

「ジャニーズのデビュー組の曲をカバーするところ。(ジャンルにとらわれず色んな表現をする様子を見ることができるところ)」

「コンサートで他グループの曲を歌ってくれるのが単純に楽しい」

「数多くある先輩の曲の中からもともと好きな曲とかをやってくれると嬉しいから」

 

ジャニーズJr.は、自身のオリジナル曲を持っていない、持っていたとしても数が少ないというケースが多いため、パフォーマンスのほとんどが先輩ジャニーズのカバー曲となる。デビュー組のコンサートは、基本的に自身のオリジナル曲でセットリストが構成される。オリジナルアルバムをひっさげたツアーコンサートや周年記念コンサートが多くなるため、アルバムやツアーのコンセプトや、セットリストにおける曲のチョイスにある程度の制約が生まれてしまうことを考えると、ジャニーズJr.のコンサートのセットリストは自由度が高いと言える。様々な先輩グループの曲を織り交ぜたコンサートは刺激的であり、長い間ジャニーズが好きなファンにとっては何重にも楽しむことができる構成になっていることが想像できる。

 

「デビュー組よりJr.の方が良い曲が多い(貰える曲数が少ないことでより洗練されたパフォーマンスになっている・沢山の候補曲の中から1つを選んでいると思うので良い曲が増えると考察しています)」

「ジャニアイ[筆者注: 毎年帝国劇場にて開催されるジャニーズ伝統の舞台であり、多くのジャニーズJr.が出演する。年によって少しずつアレンジが加えられるが大まかなあらすじや代表的な曲目は統一されている]など、ジャニーズの伝統の舞台は、長年ジャニオタをしている分毎回異なるパフォーマンスが見れておもしろい」

 

また、オリジナル曲の数が少ないことをメリットとしてとらえ、1曲を何度も何度も繰り返し披露するからこそ洗練されていく、1曲にかけているからこそ曲を選ぶ時点での熱量が大きいのではないかと考察しているファンもいた。ジャニーズJr.内グループも存在するが、あくまでも「ジャニーズJr.」というくくりの中で活動しているからこそ受け継がれる伝統の曲、パフォーマンスが存在し、長い目で変化を楽しむという意見も見られた。

ファンにとってコンサートという空間は唯一無二のものであり、メジャーデビュー前の活動範囲が限られたジャニーズJr.というディープな世界だからこそ“そこでしか見られない姿”が存在することが分かった。ジャニーズJr.を応援する際に満たされている感情として「現場でしか感じられない充実感」は大部分を占めるものであると考える。

 

第2節 成長を感じる喜び

本節では、ジャニーズJr.の成長を感じることに喜びを感じているファンの言葉をまとめていく。

 

2-1 「一緒に」

ジャニーズJr.の成長について触れたファンの回答には「一緒に」「ともに」などのワードが入ることが多かった。以下は一部を抜粋したものである。

 

「一緒に成長出来ているという気持ちになる」

「一緒に成り上がってる感がJr.でしか得られない」

「タレントと一緒に成長できる、成長する姿を近い距離で見守ることができる」

「同年代で歳を重ねていくのは楽しい」

「『デビュー』という目標に向かって、アイドル側もファン側も1つになって進んでいる感じがとてもいいなと思うから」

「デビューまでの長い道のりを”一緒に”過ごした、一緒に成長した、という感覚になれることはジャニーズJr.を応援することの醍醐味ではあると思います」

「一緒に駆け上がっていく、みたいな感覚が好きなんだと思います」

 

「デビュー」という大きな目標を掲げ、グループの結成、オリジナル曲制作、オリジナル衣装制作、単独コンサート開催、テレビや雑誌をはじめとする各メディアへの出演…など、ひとつひとつ初めてを経験する喜びを共有し、知名度や人気度が上がっていく様子を肌で感じている時間は、アイドルとともに駆け上がっていく感覚をファンに与えていると考えられる。前章で取り上げたように、ファンが自分自身で幸福感を得るためだけではなく、タレントの背中を押したいという想いから行っている活動が実を結ぶ瞬間を味わうことができるのも大きな魅力なのだろう。

活動量、人気度、経験値などにおいて、ジャニーズJr.をけん引していくメイン層は高校生~20歳前半のメンバーとなっており、今回の調査のインフォーマントの89.2%が10代~20代の女性であったことと重ね合わせると、自分と同世代のアイドルが夢をかなえる姿を応援するという構図に伴走性を見出して楽しんでいることも納得ができる。

 

2-2 見守ってきた優越感

人気になるまでの過程を見守ってきたという優越感に近いものを感じているファンも一定数存在した。

 

「古参ぶれる」

「デビューという夢を追いかけている途中で応援することに誇りを持っているから」

「これから大きくなる彼らを初期から推せているという自己満足もあると思う」

「これから売れそうな人たちを探したいという気持ちが強いです」

 

デビューし、人気が出る前から応援することができていることに誇りを持ちながら応援を行っているケースも見受けられた。まだまだ未熟な段階から応援を行うことで、将来的にファン歴の長い古参として振舞うことができることを見越し、未来のスターを探すプロデューサー的目線で楽しむこともできるようだ。一方、「古参が少ないので、変な圧をかけられることなく純粋に推すことができる」と回答したファンもおり、応援を行うにあたって歴や見守ってきた時間というものは無視できない存在なのかもしれない。

ジャニーズJr.を応援しているファンは、ジャニーズJr.の成長「過程」をリアルタイムで追うことができることに魅力を感じ、自分が何らかの形でその背中を押すことができたと感じた瞬間に達成感や優越感を基にする喜びを感じていることが分かった。エピソードや結果を求めているのではなく、あくまでも「過程」が1番大事であり その過程に自分たちファンがどれだけ介入することができるかという点が重要になるのだ。

 

第3節 「ジャニーズJr.」の特別感

本節では、ジャニーズJr.を応援しているファンが感じている、ジャニーズJrにしかない特別感について語った言葉を取り上げる。

 

「自分たちの活動に完全に後ろ盾がついてない不安定さの中で最大限の爪痕を残そうともがく姿とそれを半ば狂信的に応援するファンの姿はJr.コミュニティにいないと見られないものだなと思います」

 

ジャニーズJr.として活動していたとしても、グループを組んでいたとしても、デビューできる未来が約束されているとは限らないため、タレント自身はもちろん、応援するファンもそれぞれデビューを目指してがむしゃらに活動を行っている。自分の未来が確約されていない状況を理解しながらもアイドルとしてステージに立ち、夢を追いかける姿を「儚い」「Jr.特有のキラキラ感」と表現しているファンはとても多かった。また、そんな彼らの追い風になろうと圧倒的な行動力をもって狂信的に応援するファンの姿も「Jr.コミュニティにいないとみられない」特殊なものと語っていた。

また、「ジャニーズ」という事務所の中に存在するからこそ 伝統として受け継がれる舞台や衣装などが存在し、まだ完成しきっていない「ジャニーズJr.」だからこそ様々な方向性のパフォーマンスに挑戦する特徴があるため、その点に大きな魅力を感じているという意見もあった。以下はその一例である。

 

「Jr.が1番ジャニーズの伝統を受け継いで、ジャニーズらしいことをやっていると感じるので見ていて飽きない」

 

ジャニーズJr.のファンは大前提として「ジャニーズらしさ」を求めており、その中でも「ジャニーズJr.」として活動するタレントを実際に自分の目で見てエンターテインメントの一種として消費しながらも、母親的目線で成長の過程に価値を見出しているということが分かった。

 

 

第6章 ファンにとっての「応援」の概念

第4章、第5章では、ジャニーズJr.ファンが、“ジャニーズのアイドルである彼らをエンターテイメントとして消費すること”と“彼らの成長過程を見守り、背中を押すことができる存在であること”の2本の柱をもって応援活動をおこない、幸福感、充実感、特別感などプラスの感情を生み出していることが分かった。まだ未完成な存在の「成長を応援する」という視点で見ると、2つ目の柱である”彼らの成長過程を見守り、背中を押すことができる存在であること”が特徴的であると言えるだろう。

本調査では、「応援する」ということを『「推す」「好き」などの気持ちを持つことに加え、発信活動(自己満足の記録も含む)および消費活動を行っていること』と定義し、各設問に回答してもらったが、最後に「あなたにとって『応援する』とは何ですか。」という質問を設置し、インフォーマントが考える「応援」について自由に記述をお願いした。本章では、ジャニーズJr.のファンが考える「応援の形」についてまとめていくこととする。

 

第1節 貢献

「応援する」ことについて、何らかの形で自担に貢献することであると捉えるファンが多かった。

 

「アイドルの望みを叶えること」

「大好きな自担が夢を叶えるための手伝いをする」

 

応援対象を好きでいることを前提に、力になりたいと思い、何らかの行動に移すことという旨の回答が目立つ印象だった。あくまでも対アイドルであるため、自分が行う貢献というのはもらった幸せへの対価として捧げるものであるという意見もあり「見返りを求めずにできる恋愛」と表現するファンもいた。

 

具体的な貢献の形として数多く目立っていた回答は「数字」についてだった。以下は、数字に関して触れていたファンの回答である。

 

「担当のお給料に直結するであろうと考えられる行動を取るのが1番(公式のグッズや円盤を買う、動画を回すなど)」

「数字を提供する(グッズなどのお金がかかるもの、YouTubeTVerの再生数などの直接的にお金のかからないもの、両方とも)」

「数字に記録を残す」

 

応援対象のお給料に直接関わりがあるであろうグッズや円盤等の購入に加え、YouTubeTverで動画を回す[筆者注: 動画配信サイトにて、視聴数に反映されるよう動画を繰り返し視聴することを指す]、SNSで拡散/いいねなど反応を積極的に示すなど、様々なシーンで数字を意識して行動しているという。ファンの言葉を代用するならば、タレントたちの人気を「分かりやすく可視化する」ことで、影響力を示そうとしているということである。タレントを起用することで、起用したテレビ局や企業サイドにメリットがあることを示し、次回以降の継続起用に繋げようとしている意図があると言えるだろう。

 

第2節 自己満足

貢献することが応援することであると考えるファンも多い中、「応援する」ことは自己満足の趣味であるという意見が最も多かった。

 

「私の娯楽が少しでも長く続くために必要なもの」

「ファンサを貰って、自己承認要求を満たすための手段」

「最大級の趣味」

 

自分が幸福感を得たい、好きという感情をどうにかして発散したいと行きつく先に「応援」が存在しており、現場に足を運ぶ、声援を送る、お金を使うなど愛情表現の方法はそれぞれ個性があった。

 

「応援するとは言いつつもやっている事は全て自分のためなので『デビューしてほしい!』とか『もっと大きなステージに立って欲しい』とか全てファン側のエゴということを忘れず、謙虚な気持ちを持って応援したいです」

「ずっと見ていたいからすること。エゴでもあるかなと思います」

「結局は彼らを応援していて幸福を与えられているのは自分で、全部自分のためにやっている事なのかなと思うようになりました。自担の成長を見守ったり応援することは、自分が生きるために 自分を大切にするために必要なことなんだと思います」

 

タレントの掲げる夢が叶ってほしい、追い風でいられるように数字で貢献したいと思うのも、全てはファンの“アイドル姿をずっと見ていたい”という「エゴ」から生まれているものに過ぎない、と自身の行動を俯瞰で冷静に分析しているファンも存在した。使命感的な感情を抱き、タレントに貢献したい一心でファン活動および消費行動を行う一方で、それらの感情や行動は自身の欲求を満たすためのエゴだと割り切っており、ファン個人の中でも矛盾が生じていることはとても興味深い点である。

また、自身の人生を懸けて夢を叶える姿をエンターテイメントとして提供するジャニーズタレントと、その姿を見て幸福感を感じながら彼らの明るい未来に貢献できるように応援を行うファンという構図がしっかり成り立っていることが分かる。自身が幸福感を得るだけでなく、数字を意識したうえで献身的に活動を行っている一方で、ファン自身が自らの応援行動を一種の自己満足として受け入れている点が特徴的であると考える。接触や会話などはできないため偶像崇拝的な面も存在しつつ、活動の幅が広がっていくことによって応援活動が何らかの形でタレントの背中を押すことができていると感じることができるというジャニーズJr.特有の絶妙な距離感が保たれていることによって、ジャニーズJr.という文化は、時代が変わっても廃れることなく、むしろ盛り上がりを見せているのかもしれない。

 

 

第7章 結論

 

第1節 仮説の検証

本章では、アンケート調査で得られた知見をもとに第1章で立てたRQと仮説について検証を行う。まず、本研究の目的と仮説をもう1度確認したい。本研究の目的は、「ジャニーズJr.」のファンが何に魅力を感じ、どのような行動により自己のファン活動をアイデンティティとして確立しているのかを考察し、明らかにすることであった。本稿では以下の2つをRQとし、3つの仮説を立てた。

 

RQ1: ジャニーズJr.という未完成な存在を応援するファンは、ジャニーズJr.を応援するということに関してどのような価値観を持ち、どのような活動および消費行動を行っているのか。

RQ2: ジャニーズJr.を応援することで満たされているファンの感情は何か。

 

仮説1: ジャニーズJr.のファンは、コンサートや舞台の公演数が多く、会場の規模が小さいためにタレントとの距離が近いジャニーズJr.に魅力を感じており、コンサートや舞台などのいわゆる「現場」に足繫く通っているのではないか。

仮説2: ジャニーズJr.のファンは、未完成な存在であるタレントを自らの応援によって”完成”に近づけていくプロセスに価値を感じており、”完成”の第1ステップであるデビューを目指して「私がやらなきゃ」というような使命感に基づいた活動および消費行動を行っているのではないか。

仮説3: 満たされているファンの感情として、好きであるために得られる幸福感はもちろん、ジャニーズJr.が目指す「デビュー」という大きな目標を叶えるためにファン自身も様々な活動を行うことで、大きなプロジェクトに歯車のひとつとして参加しているような感覚や達成感があるのではないか。

 

本節では、先行研究およびアンケート調査の分析で得た知見をもとに、これらのRQおよび仮説の考察を行う。

 

1-1 仮説1

アンケート調査より、ジャニーズJr.ファンはコンサートや舞台等の年間公演数の“多さ”と、会場の小ささから生まれるタレントとの距離の“近さ”に大きな魅力を感じているという結果が得られた。具体的な理由としては、アイドルに“会える”回数が多いこと、距離が遠いからといって疎外感を感じることがないということ、ファンサービスがもらいやすいということが考えられる。

また、ジャニーズJr.ファンが現場で感じる充実感の原因となっているものは、“多さ” “近さ”だけではないということも分かった。コンサート内で披露される曲、セットリストの構成など、ジャニーズJr.であるからこそ叶う先輩曲のカバーという一種の「文化」が大きな価値を生み出していた。

以上で示した理由により、ジャニーズJr.のファンは、現場で感じられる充実感に魅せられており、数多く開催されているコンサートや舞台に足を運んでいるということが分かった。そのため、「ジャニーズJr.のファンは、コンサートや舞台の公演数が多く、会場の規模が小さいためにタレントとの距離が近いジャニーズJr.に魅力を感じており、コンサートや舞台などのいわゆる「現場」に足繫く通っているのではないか。」という仮説1は、一部支持されると考えることができる。

 

1-2 仮説2/仮説3

先行研究から、ファンは時代やそのジャンルに関わらず、自分の応援する対象が成長している姿に共感し、時には自分を重ね合わせることで、共に成長している感覚を味わい、一種の達成感を感じているということが分かった。成功だけでなく、失敗や苦しみも味わい、乗り越える瞬間をリアルタイムで応援することで、ファン自身も共に歩んでいる気持ちになるケース、自身の理想を応援対象に投影するケースなど応援対象に重ねるファン自身の感情はそれぞれであったが、いずれも何らかの「想い」を託しているということが言える。

アンケート調査からは、ジャニーズJr.ファンがジャニーズJr.を応援することで、“現場での充実感” “成長を感じる喜び” “「ジャニーズJr.」であることの特別感”を感じているということが分かった。デビューをひとつの大きな目標として掲げつつも、それを応援活動のゴールとは設定していないこと、デビューを目指しながら、ひとつひとつ駆け上がっていく過程を「一緒に」経験する時間に魅力を感じていることが特徴的であった。一方で、私がやらなきゃ!というような使命感や責任感のような背負う感情は抱いておらず、あくまで前向きに自分が楽しむために動いているファンが多かった。そのため、「ジャニーズJr.のファンは、未完成な存在であるタレントを自らの応援によって”完成”に近づけていくプロセスに価値を感じており、”完成”の第1ステップであるデビューを目指して『私がやらなきゃ』というような使命感に基づいた活動および消費行動を行っているのではないか。」という仮説2は一部において支持された。

また、アンケート調査において、ジャニーズJr.ファンがタレントの成長を通じて感じる喜びの理由として、”「一緒に」駆け上がっていく感覚があるため” “「ひとつになって」目標に向かっている感じがする”ことを挙げていたことから、先行研究で取り上げたような他ジャンルのファンと同じように、ジャニーズJr.ファンもまた、応援対象の成長過程に伴走している感覚を覚え、達成感や優越感に繋げているということが言えるだろう。「満たされているファンの感情として、好きであるために得られる幸福感はもちろん、ジャニーズJr.が目指す『デビュー』という大きな目標を叶えるためにファン自身も様々な活動を行うことで、大きなプロジェクトに歯車のひとつとして参加しているような感覚や達成感があるのではないか。」という仮説3は、支持された。

ジャニーズJr.ファンは、自身の行動が時にはタレントの追い風になる可能性をはらんでいることを自覚し、好意を可視化してタレントに貢献できるよう活動を行っているが、その貢献活動はあくまでも自分が日々受け取っている幸福への対価であり、これからも好きでいたいというファン自身の願望から生まれる「自己満足」「エゴ」であると自認していることが分かった。ジャニーズJr.ファンは、筆者が仮説を立てる際に想像したファン像より遥かに冷静であり、自身とアイドルの関係性を俯瞰して見ていたという表現が近いかもしれない。

 

第2節 研究の限界

本研究では、より多くのファンの価値観を収集することを優先したため、個別インタビューを行うことができなかった。インフォーマントのほとんどが10代~20代の女性だった(コンサートや舞台で実際に見かけるファン層と一致する結果ではあった)ため、応援活動を通じてタレントと一緒に成長しているように感じる点に魅力を感じていることが大きな結果として残ったが、もう少し上の年代あるいは男性に向けて調査を行うことができれば、また違った価値観に触れることができるのではないかと考えた。

また、本研究では、現在ジャニーズJr.を応援している人を対象として調査および分析を行ったが、今後その応援していたジャニーズJr.がメジャーデビューした場合に応援活動およびそれに関する価値観が実際どう変化していくのかを追うことはできない点にもどかしさを感じた。

本研究には、以上のような限界が存在する。

 

第3節 今後の展望

今後の展望として、ジャニーズJr.時代から応援していたタレントがメジャーデビューした後「も」応援しているファンへの調査を挙げる。今回調査に協力してくださったファンの方々は、応援しているジャニーズJr.が、一種の区切り目である「デビュー」というタイミングを迎えたときに何を感じるのか調査することで、ジャニーズJr.時代から応援することへの価値についてより深く分析が行えると考える。

また、今日問題となっているジャニー喜多川氏の性加害問題を受け、ジャニーズ事務所と所属タレントの契約形態、番組出演および継続の状況などが、本調査中および論文執筆中も刻一刻と変化しており、それを受けたファンの心境にも大きな揺れが生じていることが予想できる。今後、ジャニーズJr.という存在がどのように活動していくのか、ファンはどのような形で応援活動を行っていくのかは大変興味深い点である。

本研究の結果から、ジャニーズ事務所においてタレントを応援するということにおいて、ジャニーズJr.という「文化」は重要な意味を持つものであると考える。育成の段階からビジネスとして世間に公開され、ファンのまなざしにさらされながら、その期待と自身の夢を背負って目標に向かうジャニーズJr.の姿と、並々ならぬ情熱を注ぎ込んで応援活動を行うファンの姿は、ジャニーズJr.を取り巻く世界でしか見ることができないものであり、今後もこの文化は拡大していくのではないかと考える。SNSやインターネットを駆使する世代が社会を引っ張っていくこれからの時代に、長く続いてきたこの文化がどう存在し、進化し続けるのかに注視していきたい。